2024/10/06 09:16
「北海道生活」編集長

函館にシェフが集結!第11回「世界料理学会」レポート(後編)

函館にシェフが集結!第11回「世界料理学会」レポート(前編)

函館にシェフが集結!第11回「世界料理学会」レポート(後編)

「第11回世界料理学会 in HAKODATE」二日目は、函館国際ホテルから五稜郭にある芸術ホールに場所を移しての開催です。

■発酵 熟酢について/徳山 浩明さん


滋賀・長浜「徳山鮓」

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日本一大きな琵琶湖のそばにある、小さな余呉湖。その近くにある「徳山鮓」。
店主の徳山さんは、30年前に京都で修業中、「日本発酵機構余呉研究所」で発酵の世界に魅了されました。

「すばらしい料理をつくれても、脇役は味噌や醤油など全部、発酵のもの。滋賀に伝わる鮒(フナ)ずしを世に広めてほしい」と言われ、日本料理店では臭い(香り、と徳山さんはいいます)と敬遠される鮒ずしをどうするか3年間考えてきたそうです。

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地元で獲れる「ニゴロブナ」は骨が柔らかく発酵しやすいと、このフナを使っての鮒ずしに取り組まれました。

一年塩蔵→水洗い→炊いた米を詰める→わらを使う本漬けと昔ながらの製法を改良し、昔は古米を使っていたがブレンドしたほうがいい発酵(わくわく、というそうです)ができることも発見。

前日夜にパーティで味わった鮒ずしは、とっても美味しくて、日本酒はもちろんですがワインにも合う逸品でした。

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「仕上げの状態を見きわめれば、いいものができる」と、氷頭の部分を見て発酵具合を確かめるという徳山さん。

理想の鮒ずしが完成してからは、さまざまなアレンジに挑戦、そのほか「発酵からすみ(商標登録済)」、イノシシなども発酵食として研究中とのことです。

「記憶に残る料理をつくろう」と徳山さんが心がけているのは「妙味必淡(みょうみひったん)」つまりインパクトのある味ではなく、奥深い味のことなのだと思います。


■賛否両論20周年で思うこと/笠原 将弘さん


東京「賛否両論」

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テレビ出演で有名な「賛否両論」の笠原さん。
実家は焼き鳥屋さんで、日本料理店で修業していた頃「(敷居が高くて)友人が店に来てくれなかった」ということで、自分の店「賛否両論」を開くにあたっては、できるだけ気軽に来てもらえるようにと値段設定やメニュー構成を徹底的に考えたそうです。

メニューは「おまかせコース」のみ。
八寸・揚げ物・お椀は、まだお腹がすいているうちにどんどん出す。
そこからはペースを落として、お造り・箸休め、おしのぎ・焼き物・肉料理・蒸し物 と、お酒とともにじっくり味わってもらう。

刺身にも季節の変わり醤油を多種多様に用意するなど、徹底的に考え抜かれています。

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「土鍋ご飯」は笠原さんが店にいるときは、ご自身が目の前で提供するそうです。
お客さんの反応を見てコミュニケーションする貴重な時間なのだとか。

食後の甘味は「水菓子(フルーツ)にしたくない」と、6種類を好きなだけどうぞというスタイルにしているそうで、お客さんを喜ばせる工夫が余すことなく紹介されていました。

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全国に5店舗がある笠原さんは、同じ店に毎日いられるわけではなく、「店に行ったら会えなかった」といわれて悩んだこともあるそうです。
それでも自分が楽しく、お客さんも喜ぶ、会社にも利益が出る、それでいいと割り切れるようになったといいます。

著書は90冊、コンビニや駅弁のプロデュース、テレビの料理コーナーで生放送に出て出演するなど、大活躍している笠原さん。
「美味しいもいいけれど、楽しかったと言われるのがうれしい」と、楽しいトークで会場を沸かせていました。


■健康寿命を延ばす食事法(オートファジーとは何か)/道野 正さん・吉森 保さん(細胞生物学者)


大阪「ミチノ・ル・トゥールビヨン」

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料理学会の常連、「ミチノ・ル・トゥールビヨン」道野 正さんがご紹介するのは、大阪大学栄誉教授の吉森 保さん。

「数えきれないほど学会に出ているが、料理学会は初めて」という吉森さんは、「日本は世界有数の長寿大国なのに、健康寿命はそれより10年短い」――つまり寿命まで10年苦しむ期間があるわけで、その期間をなくす研究をしているそうです。

それが食事によって改善の見込みがあると科学的に証明できることがわかりました。

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細胞の中にあるものを回収し分解しリサイクルするシステム「オートファジー」を発見した吉森教授は、加齢とともにオートファジーが低下することに注目、オートファジーの促進で加齢性疾患(パーキンソン病、ガンなど)は押さえられるといいます。

日常生活でオートファジーを促進する方法は、腹八分目や早めの夕食、有酸素運動など特に珍しいものはありませんが、科学的に証明されたというのですから、できるだけ気を付けたいですね。

食品としては、ザクロ、赤ワイン、納豆、チーズ、しいたけ、エビ・カニ(グルコサミン)、緑茶(カテキン)、サケ(アスタキサンチン)、ナッツ、韃靼そば、ゴマ(セサミン)、など発酵食品に多い。
また脂肪の高い食事は控える、糖質制限など極端のものはダメだそうです。

ただし「病は気から」も最先端の研究では正しいとされているそうで、「大事なことはストレスをかけないこと」として、無理のない範囲で食生活を楽しむことが健康寿命を延ばすのかもしれません。


■人も自然も健やかに ~いすみ市と生きる~/木村 藍さん


千葉・いすみ「五氣里(いつきり)」

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千葉県いすみ市出身の木村 藍さんは、就職後、結婚して専業主婦に。
家事は苦手だったのに、料理だけは大好きになり、一念発起して退職金をつぎ込み、有名な料理学校「コルドンブルー」へ入学したというユニークな経歴。

2012年に東京・池袋で自身の店をオープンしますが、自分の故郷・いすみ市の生産者たちとの出会いから、いすみ市の食材を前面に出すように。2023年には農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞を受賞しました。

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「いすみ市は里山海川すべてが揃う最高の場所」と、2024年いすみ市へUターン、ラグジュアリーリゾート「五氣里」の料理長になった木村さん。

生産者を訪ねまわり、伊勢エビ漁では網のそうじを手伝ったり、ひっかかっていた海藻類は畑に持って行って肥料とするなど、生産の現場にさらに踏み込んでいきます。

ここで紹介されたのが「ファームあき」青木昭子さん。毎週のように畑を訪れる木村さんへ全幅の信頼を寄せています。

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「WIG(Women In Gastronomy)食の世界の女性たちの会」にも属している木村さん、青木さん。

ここで会場にいらっしゃる会員のみなさんが紹介されました。

料理界にも女性料理人が増えてきて、いつかは「女性」とすら言われなくなる時代が来たらいいなと思います。

■ルイス・イリサール~巨匠たちの巨匠~/ビシ・イリサールさん


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スペイン・サンセバスチャンから来ていただいたビシ・イリサールさんは、「巨匠たちの巨匠」と呼ばれた料理人ルイス・イリサールの娘さんで、父が開いた料理学校を引き継いできました。

ビシさんが語るルイス・イリサールの生涯と功績は、今や世界の美食のひとつに数えられるバスク料理の歴史にもつながります。

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料理人として腕を磨き、やがてバスクのホテルマネジメント学校のディレクターに就任、後進の指導につとめたルイス・イリサール。

レストラン「グルッツェ・ベリ」を経営し、若いシェフのため料理コンクールへの出場を積極的に推進していました。この店で深谷宏治さんが働くようになったことで、現在の函館の料理学会につながっています。

やがてバスク地方ではテロが起き、非常事態下で料理人たちの仕事にも危機が訪れますが、1976年料理人たちが立ち上がり、ルイスをリーダーとする「コシナ・バスカ」を結成。

「古典的な料理と新しい料理の橋渡し 高級料理の民主化」を掲げ、新しいバスク料理を世間に公表することになります。

この写真を見たとき、函館の港で撮影したガストロノミーバリアドスのみなさんの写真がカレンダーになっていたことを思い出し、ルイスたちの活動が深谷さんに大きな影響を与えたのだなと思いました。

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そして自身の店「ルイス・イリサール」をオープンし、バスク料理をメディアで紹介して広めていったルイスは、1992年にはスペインで権威ある賞「タンボール・デ・オロ(金の太鼓賞)」を受賞。
念願の教育施設、ルイス・イリサール料理学校をオープンしてからは後進の育成につとめ、実に600人もの卒業生を輩出します。

料理本も数多く出版し、「いい料理で秘伝のレシピに基づくものはない」と何でも惜しみなく公表していったルイス・イリサール。
美味しいお店をテレビで紹介すると、レシピは「企業秘密」といわれがちですが、このサンセバスチャンというまちは美味しいレシピをシェフたちが共有できることで美食のまちへと変貌を遂げたのです。


■辻口 博啓ヒストリー/辻口 博啓さん


東京「モンサンクレール」

最後は日本で最も有名なパティシエ、辻口博啓さんが料理学会に初登壇。
実行委員会によると、「調理製菓を学ぶ高校生や専門学校生にぜひ聞いてもらい、刺激を受けてほしいと考えている。学校放課後の時間帯にスケジュールを設定し、聴講を希望する若者たちに招待券を発行し聴講してもらう」とのこと。
そのため、会場には学生たちの姿が見られました。

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辻口さんは石川県の能登地方にある七尾市のご出身。
和菓子店三代目として生まれるも、小学3年生の時ケーキを食べて洋菓子に目覚め、「食べ物は人を感動させる」とパティシエを目指します。
それ以降の波乱万丈な人生は、NHKの朝ドラ「まれ」のモデルにもなりました。

新千歳空港に「北海道牛乳カステラ」をオープンしたとき、お目にかかったことがあるのですが、同じ石川県の出身だと伝えると喜んでいただき、北海道で出会った牧場の牛乳のすばらしさも熱く語っていただいたことを思い出しました。

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国内外で数々のコンクールで受賞している辻口さんですが、コンクールを研究し、しっかりマーケティングして着実に受賞につなげたとのこと。
ほかの店や味の研究など、華やかな経歴の裏には徹底した勉強と努力があったことがわかります。

あるとき輪島市の漆芸美術館の館長から「自分のルーツを考えろ」と谷崎潤一郎『陰翳礼讃』を渡され、能登の塩づくり、生産者によって見える世界を自分なりに感じたという辻口さん。

能登半島地震ではスイーツの力で復興支援しようと、ショコラ「能登」シリーズを発表。
「これから能登をもっと知ってもらい、光を当てていきたい。美味しい菓子づくり、人づくりに人生をかけていきたい」という言葉で締めくくられました。

まとめ/滋賀・米原「ベルソー」齋藤 壽さん


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料理界の雑誌「専門料理」編集長を長年つとめ、やがて「料理王国」を発行した齋藤 壽さん。現在は滋賀県に移住し、「ベルソー」というレストランに関わっているそうです。

今やフランス「MOF」コンクールで日本人が受賞し、日本人シェフが「ミシュラン」三ツ星を取る時代になったと語る齋藤さんは、「アスリートもそう、若い世代が世界で活躍しているこの時代、その中で自分をどう表現するのか」ということについて、かつての取材経験をふりかえられました。

「みんな本音で自分の言葉で話していて非常に面白かった。ここから新しい出発の形が生まれてくればいい」と語った齋藤さん。

私も毎回参加していますが、料理人でもプロでもない自分でもとても勉強になり面白い学会なので、ぜひ全国の料理人の方々に参加してもらえたらと思います。

閉会~料理人たちのこれから


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最後は深谷宏治さんの閉会のご挨拶。
今回のテーマは「混沌とした世界を突破していきたい」ということから始まったそうですが、「力強い発表があった。料理人ができるかということを、もっと発展させていけたら」と、これからのことを期待しての熱い言葉がありました。


函館にシェフが集結!第11回「世界料理学会」レポート(後編)

そして毎回恒例ですが、会場にいた料理人や食のプロたちに声をかけ、壇上にあげての記念撮影。

今年もみなさん、大変おつかれさまでした!

学会を支えるユニークな「美食カレンダー」を毎年発売


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この料理学会は、自分たちで資金をつくり、登壇する方もボランティアだそうです。
そこで「料理人カレンダー」を毎年発行し、資金源としています。

このカレンダー、表紙は料理人のみなさんのユニークなパロディも楽しみのひとつですが、中身は美しい料理の写真、そしてその料理が実際に期間限定でお店で味わえるというしかけになっていますので、毎年買っています。

来年のカレンダーもそろそろ完成するそうで、ぜひ公式HPを確認してお買い求めください。

1年半に1回行なわれる「世界料理学会 in HAKODATE」――次は2026年春でしょうか、楽しみにしています!

(「北海道生活」編集長)


第11回世界料理学会 in HAKODATE (略称:WCAM11)

テーマ「混沌たる時代に向けて、料理人はどうあるべきか」


会期/2024年10月1日(火)・2日(水)


会場/

函館国際ホテル(函館市大手町5-10・第1日目会場)

函館市芸術ホール(函館市五稜郭町37-8・第2日目会場)


【関連イベント】開催記念パーティ

日時/2024年10月1日(火) 函館国際ホテル

https://ryori-hakodate.net/wcam11.html



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