2024/10/05 15:19
「北海道生活」編集長
函館にシェフが集結!第11回「世界料理学会」レポート(前編)
2024年10月1日(火)~2日(水)の二日間、函館で「第11回世界料理学会 in HAKODATE(略称:WCAM11)」が開催されました。
2009年にスタートし、今年で15年目を迎える料理学会。料理人の、料理人による、料理人のための学会として、第1回目からずっと取材させていただきました。
ふだんは厨房にいて見られない、ゆっくり話せない料理人のみなさんが、何を考えて、どう行動しているか、料理人でない方々にも十分に見ごたえがあり、誰でも参加できる学会です。
会のオープニングは、料理人や食のプロたち全員で決意表明です。
今回の学会のテーマは、「混沌たる時代に向けて、料理人はどうあるべきか」。
発起人の深谷宏治さんは、地球環境の変化、戦争や食糧問題など世界的な問題がある一方、食の安全や環境負荷への対応、働き方改革、次世代の育成といった様々な問題に対して料理人はどうあるべきか――それぞれの方に自身の料理論を語ってもらい、その取り組みや考えを共有し合うなかで、未来の料理人の姿を考えていきたいということです。
登壇者も司会、進行、登壇者を紹介するのも料理人や食のプロのみなさんです。
ずっと司会をしてくれるのは、七飯町のパン屋さん「ヒュッテ」の親方こと木村幹雄さん。
時には自由な方もいるシェフの登壇者たちを、うまくまとめていただく司会のプロでもあります(笑)
では、学会の一日目をふりかえっていきましょう!
■日本料理「たか田八祥」の四季/高田 晴之さん
岐阜の食材をつかった四季折々の料理でもてなす「日本料理 たか田八祥」の高田晴之さん。
明治以降すたれていた食文化「なれ鮨」は江戸前寿司のルーツだそうです。
秋の鮎、春の若鮎、と試行錯誤しながら食文化の復活を目指し、失敗から学んだという高田さん、「若鮎のなれ鮨」を見事に完成させます。
ほかにも、岐阜の若鮎のブランド化、自ら狩猟を趣味とし、ジビエの利用促進を目指す「明宝ジビエ」国産スピルリナ「ASUMO」など、食材の魅力発信にもご尽力されています。
コロナ以降の変化について会場から質問があったところ、「たしかに会社関係の宴会は減ったが、単価を下げてお客さんを呼ぶより、より単価を上げて質を高めるようにした。そのために食材について、発酵、料理以外のしつらえ、うつわまで、とことん勉強した。知識を深掘りすることが大事です。」という言葉が印象的でした。
■トークセッション「レストランの人材育成を考える」奥野 義幸さん・秋山 能久さん・間 光男さん
進行役は学会の常連、東京「TERAKOYA」間 光男さん。
同じく常連で東京「六雁」秋山 能久さん、多店舗を経営する東京「ラ・ブリアンツァ」の奥野 義幸さん、対照的な店舗経営に見えるお二人に、人材育成についてお話をうかがいました。
奥野さんは東京・大阪などに複数店舗、適材適所に配置するには人が足りてないといいます。
秋山さんは和食の料理人の募集をしても、なかなか応募が来ない悩みがあるそうです。
お二人とも共通していたのは、何をしたいのか本人にヒアリングし、とにかく会話をする、コミュニケーションをとるということ。
一昔前の料理人の世界だと「俺の背中を見て覚えろ」とか「味は盗め」とかありそうですが、今の世代には通用しません。
「組織が大きくなるとヒエラルキーがはっきりする」という奥野さん。マネジメントができる人を店長にして、何ができれば上にあがれるのか、リーダーをさらにのばすようにタスクを明示し、若い人材を辞めさせないよう考えているそうです。
「料理長、副料理長、その区別がなくてもいい。お互いを尊重し合っていこう」という秋山さん。労働の対価はお金だけど、お金には代えられないもの、経験などを得て、労働の楽しい部分も感じてもらえるように伝えているとのこと。
会場に来られた方々の中にも店などを持つ経営者の人が多く、とても参考になったのではないかと思います。
■2016年G7伊勢志摩サミットのレガシーを大切に/河瀨 毅さん
伊勢「ボン・ヴィヴァン」の河瀨 毅さんは、三重県の料理人グループ「エバーグリーン」のひとり。
ここで「エバーグリーン」の紹介がありました。
2016年G7伊勢志摩サミットで「伊勢志摩観光ホテル」高橋料理長の遺志を継いだ樋口宏江さんもそのひとりで、前回(第10回)の料理学会で登壇されています。
伊勢志摩のリゾート地「VISON(ヴィソン)」でも料理学会が開催され、函館の料理学会の常連の方々と楽しんでにぎやかに行なわれている様子が動画で映し出されました。
今年4月は2回目が行なわれたそうで、函館でも食のプロの集団「ガストロノミーバリアドス(略称ガスバリ)」がこの学会を支えているように、三重県でも料理人集団が地域を盛り上げているのだなとわかりました。
■今を考える/高良 康之さん
2017年までフレンチの名店「銀座レカン」の料理長だったという高良 康之さん。
クラシカルな料理を再構築し、高良さんならではの料理を模索していました。
「レカン」は料理長に代々料理を伝えるのではなく、全部自分でやって責任を取るというのがスタイルのため、前の継承ができないプレッシャーに襲われます。
名店ゆえ全国各地の生産地から最高の食材が次々届き、何とか使わなきゃとあせり、次第に迷走していったという「しくじり先生」と当時をふりかえっていました。
自身の店をオープンした時は、その反省から、素材がわかるような料理、飲めるソース、意味のある付け合わせを心がけたという高良さん。
そして実際に口にするお客さんの身になって、肉を切ってソースをつける順番まで意識する盛りつけに。
今や人気店になったレストランですが、そうした一つひとつの努力の積み重ねが活かされているようです。
■瀬戸内ナポリ料理/杉原 一禎さん
「日本の最高の食材を手に入れられるようになって、逆に、イタリア料理で表現しづらくなった」という杉原さん。ベテランになればなるほど、前回の高良シェフとも似た悩みが生じるものなのですね。
イタリアの地方料理を、地元で表現する限界を感じていたといいますが、地元の生産者と出会うことで、その限界を突破することができました。
「これまでは120点の鯛で150点の料理をつくっていたけれど、地元で90点の鯛が釣れたとき、どう料理するか」――「いま目の前にある食材」に向き合いたい」と瀬戸内愛に突き動かされて「瀬戸内ナポリ料理」として再出発したそうです。
ここで杉原さんが信頼を寄せる生産者もご登壇。
明石浦漁協、鮮魚店や漁師のプライドを背負う「つる一」鶴谷真宣さんに、鯛の神経〆のようすをご紹介いただきました。
神経〆は、この学会でも何度か紹介されていて、道南でも神経〆を行なっているところがいくつかあります。
生産者が手をかけて、さらに旨みを増した鯛は「おいしい鯛ならわさび醤油でいいんじゃないか?」という発想から、つくりあげていった「つる一抜群の明石鯛のカルパッチョ」を杉原シェフがご紹介。
今回の学会の前には、函館の市場見学にも参加し、「天然の昆布が絶滅の危機、養殖も昔から価値あるものがある。自分たちが価値に気づいたものは、失われつつあるので、守るべき対象を世の中に広めるのが料理人の使命だと思う」とお話ししていました。
以上で一日目のプログラムは終了、そのあとは会場を変えて、料理人たちによる「開催記念パーティ」が行なわれました。
「第11回世界料理学会 」開催記念パーティ
一日目の学会の後で行なわれる開催記念パーティは、学会に参加した人なら一層楽しめる、学会で紹介された料理がピンチョス(一口サイズの料理)で味わえるという、またとない機会。
参加費は11,000円ですが、払っても惜しくない!と毎回自腹で参加しています。
そのため、ピンチョスを食べたり、参加者の方や料理人の方とお話ししたりで、ここから先は取材とはいえませんが、もう少しお付き合いください。
最初の挨拶は、函館「レストランバスク」と「ラ・コンチャ」のオーナーシェフ・深谷宏治さん。
若き頃サンセバスチャンで修業し、「料理人が街を変える」という姿を目の当たりにし、それを地元の函館に持ち込んで学会やイベントBAR街をしかけた発起人です。
ブッフェでは「ラ・コンチャ」の生ハムもふるまわれました!
ご挨拶は函館市長の大泉潤さん。
今年の1月にインタビューさせてもらって以来……なんですが実は、とある食堂でばったり会ったこともありました。
手前より時計回りに、「賛否両論」椎茸・人参・三つ葉入り燻製豆腐、「たか田八祥」馬鈴薯のハリハリ、「徳山鮓」ふなずし
ブッフェは会場となった箱館国際ホテルのブッフェとともに、学会の料理人たちによるピンチョスが登場!
長蛇の列、争奪戦で、私はいつも負けるのですが(笑)今回は強力な助っ人が何人もいて、全品味わうことができました♪
学会に参加した方に配られるパンフレットと、パーティのピンチョス料理メニュー
函館から全国に広がる料理学会は、東京、岩手県、静岡県、三重県、広島県、そして来年の11月には札幌でも開催されることに!
こちらのブログでも紹介した、「北海道フードフィルムフェスティバル」のプログラムとして、料理学会が行なわれます。
というところで、主催者を代表してオフィスキュー社長の伊藤亜由美さんがご挨拶。
そして、翌日の学会に登壇される人気パティシエ、辻口博啓さんは私と同じ石川県出身。
能登半島地震の支援の呼びかけ、感謝の思いなどをお話しされていました。
辻口博啓さんと秋田「STOVE+」齋藤 毅さん
最後は学会に参加されるシェフや食のプロのみなさんで「カンパーイ」!
パーティの調理やサーブなどでも働かれたみなさま、本当にお疲れさまでした。
そして、学会は二日目へとつづきます。
(「北海道生活」編集長)
第11回世界料理学会 in HAKODATE (略称:WCAM11)
テーマ混沌たる時代に向けて、料理人はどうあるべきか」
会期/2024年10月1日(火)・2日(水)
会場/
函館国際ホテル(函館市大手町5-10・第1日目会場)
函館市芸術ホール(函館市五稜郭町37-8・第2日目会場)
【関連イベント】開催記念パーティ
日時/2024年10月1日(火) 函館国際ホテル
https://ryori-hakodate.net/wcam11.html
後編へつづく→函館にシェフが集結!第11回「世界料理学会」レポート(後編)