2024/07/26 15:00
北海道生活
ハーバルライフ|フランスの旅で感じた、植物のある暮らし
数年前に行ったフランスの旅。今回は、その旅で感じた「植物のある暮らし」をつづります。
このコーナーでは、香りを持つ植物の魅力に惹かれて、育てる、眺める、味わう―、日々の出来事をハーブ研究家のかりのあさのさんがつづります。
取材協力:かりの あさの さん(herbarist・ハーブ研究家)
北海道も夏本番ですね。年々、気温・湿度ともに上昇しているのを実感していますが、さらに暑く40度近い7月の南フランスに出向いたときのことを、植物を通して、見て・感じたことをつづってみたいと思います。
建物の壁面をグリーンが覆う。ヨーロッパの街並みではよく見かける風景
日本とフランスでは気候はもちろん、建物を建築する際の基材に違いがあり、「フランスで見た美しい壁面の演出を取り入れたい」と思っても、すんなりいかないことがあります。
特に、壁面に直接植物が張り付くことは壁が傷むので、実現できないことが多いでしょう。また、窓辺にゼラニウムの鉢植えを並べる演出も、建築時から耐荷重を計算してハンギングを設置できるようにしなければ難しいと思われます。
南フランスのプロヴァンス地方では、夏は40度近くまで上がりますが、湿度が低く、木陰にいるとやり過ごせる感じです。宿泊先のオーベルジュやホテルの広い庭にも、背の高い木々が随所に配植してあり、その下で涼むことができます。
宿泊先の部屋から、窓越しにテラスが見える
プロヴァンスでの宿泊先では、部屋からプライベートテラスに出られるようになっており、窓を開けると、広い庭の林をバックにした8畳ほどの広さのテラスがありました。高さのある鉢植えがいくつかと、くつろげるようにテーブルや椅子も。
緑に囲まれたプライベートテラス
夏のプロヴァンスは、サマータイムもあってか夜9時頃になってようやく日没。ディナーもその時間帯から、ガーデンの中にあるレストランのテラス席でいただきました。深夜0時頃まで数時間、ゆっくりワインを飲みながら話に花を咲かせて食事を楽しむ…。そんなスタイルに慣れ親しんでいる、現地の方々の暮らしを垣間見ました。
翌日は早起きをして、部屋にあるテラスでくつろぎました。というのも、夕方になってもまだ陽が高く、暑かったためです。
さて、ヨーロッパといえばオリーブのイメージ。オリーブの塩漬けがとても美味しかったのはもちろん、住宅街ではほとんどのお宅に大きなオリーブの木がありました。ヨーロッパの食生活に密接に関わりのあるオリーブの木は、シンボルツリーのようになっているところが多かったです。木にたくさん実っているオリーブを見るのも、この時が初めてでした。
庭先にシンボルツリーのように大きく育つオリーブの木
オリーブの実もたくさん付いている
自生しているローズマリーも、あちらこちらで見かけました。日本でいうなら、オンコの木のように育っているものもあれば、ガーデンの階段の縁に這うように育っているものなどさまざま。
どのハーブもそうでしたが、日中は香りが薄め。暑さの中で植物自身が枯れないよう、精油成分を揮発させているためではないかと…。揮発ととに香り成分も減っていくため、暑さの厳しい日中は香りが薄くなるのだろうと思います。いわゆる雑草とよばれる植物が、灼熱に耐えきれず茶色く枯れているほどですから。
ローズマリーの香りを早朝に確かめてみると、やはり日中よりも香りを漂わせていました。
階段の縁を這うローズマリー。通るとふわっと香る
川の近くを散策できる通路があったので、私も散歩してみました。歩いて行くと、小さな植栽エリアにローマンカモミールが咲いていました。
市街地は石畳やレンガ敷、アスファルトの印象がありますが、土が見える場所にはいろいろな植物や木々が植えてあり、歴史ある風景の中に緑が映えています。歩道にも大きなコンテナ鉢が設置されているなど、建物と植物がセットになっているイメージです。
セーヌ川のほとりで見つけた、カモミールの植栽
宿泊先のメインガーデンに向かう通路が、すでに美しいガーデンとなっていたのが印象的でよく覚えています。
キョウチクトウやアガパンサスなど、日本でも見慣れた植物ですが、敷き砂利の色味やサイズ感などが異なるので、雰囲気もがらりと異なる印象になるのかもしれませんね。
メインガーデンに向かう通路。通路とは思えないほど、すでに美しい風景
広大なメインガーデンには、布製のソファーにテーブルを置いたリビングエリアが。ほとんど雨が降らない地域ならではのセッティングですね。日本ですとどうしても家具が雨に濡れることを危惧して、このような空間は難しいものです。
ここでは、ウェルカムドリンクをいただいて、くつろいできました。ラベンダー、ロシアンセージ、カレープランツなどのハーブ、アガパンサスなどが植栽されており、癒しのカラーの空間。これらはすべて、乾燥に強いハーブたちです。
メインガーデンにある、リビングガーデンのエリア
プロヴァンスに滞在したあと、さらに南に移動して行きましたが、植物の分布が少しずつ変わっていくのを感じました。
ある宿泊先では、客室がガーデンを囲うようなつくりになっており、宿の出入りもガーデンを通るスタイル。入り口にはパラソルと椅子が備えてあり、自分の庭のように眺め、散策ができます。
日中は40度近い暑さと照りつける日差しの中、桔梗(キキョウ)が咲いていることに少し驚きました。
ガーデンを囲う建物のつくり。まるで自分の庭ように、すぐ近くに感じられる
出入り口のすぐそばで、桔梗が咲いているのを見つけた
カタバミとゼラニウムの何気なく置かれた鉢植えも、優しいブルーの扉の見える風景に馴染んでいて、その横でさりげなくアカンサスモリスなどが咲く様子など、くつろぎたい気持ちとはうらはらに、私は次の植物へと目が泳ぎっぱなしでした(笑)。
こんもり育つカタバミとゼラニウムの鉢植え。ゼラニウムの赤い花が、空間のアクセントになっている
次の目的地のニースに近づくと、サボテンなどの大型多肉植物が増えてきます。
宿泊先の通路の傍には竹林がありました。和のイメージが強い竹ですが南フランスでこの風景を目にしても、なぜかしっくり馴染んでいることに不思議さも感じました。
ニースに近づくと、多肉質なサボテンなどの植栽が目立つ
竹林の風景
どの地域の宿泊先も、ガーデンにはアガパンサス、キョウチクトウが多くとり入れられていた印象です。
北海道ではキョウチクトウは戸外越冬は難しいのですが、フランスでは一般のお宅でも、鉢植えで背丈を大きく育てているようでしたので、人気の高さが伺えます。
通路を演出するのは、アガパンサス、キョウチクトウの植栽
ニースでは、サーモンオレンジの塗り壁のホテルに。サンパラソルがイメージフラワーとして使われおり、赤、白、ピンクと色合わせが難しいはずの組み合わせが1つの鉢の中にまとめられていて、ビビットな色づかいが空間のアクセントになっていて素敵でした。
また、花壇の低木の足元にも同じようにあしらわれていて、トータルでコーディネートされた演出は見事でしたね。
サーモンオレンジの塗り壁にも負けない、ビビットなサンパラソルの花色
オーベルジュなどには自前のキッチンガーデンもあり、バジル、タイム、セージ、レモンバーベナ、ミントなど、さまざまなハーブを栽培されていました。湿度は低く30%台、気温は40度近い、そして快晴。そんな中で必須なのが、自動給水システムです。キッチンガーデンだけではなく、メインガーデンにも給水用のホースが張り巡らされていました。
そういえば、訪ねたナーセリーでも、販売用の大型のオリーブ鉢に自動給水装置が使用されていました。
自動給水装置が活躍。ホースが張り巡らされている
日中のガーデンメンテナンスによる熱中症の予防や、人手不足などを含めた効率性などを考えると、自動給水装置は日本でも必要ではないかなとこの旅で強く感じ、帰国してから実際に監修先のガーデンで実践。植物の成長にも、人手不足解消にも効果を実感しています。
「植物のある暮らし」が日常として馴染んでいる、美しい南フランスの風景。いつかまた訪ねたいと思うとともに、歴史あるほか国の植物のある暮らしぶりも、いつか見てみたいと思っています。
プロフィール
かりの あさの
herbarist・ハーブ研究家。北海道札幌市内に在住。ハーブやアロマの指導員などの資格を有し、30年以上植物と向き合い得た知識・経験をもとに、企業のアンバサダーや商品開発に携わる。また、さまざまな講座開催や公共の場での「みどりのまちづくり」のサポートなど、幅広く「ハーブのある暮らしの魅力」を伝えている。
・かりのあさの lit.link(リットリンク)https://lit.link/karinoasano
HP「ハーブまるごと活用生活」、Facebook「かりのハーブcom」やInstagram「karinoherb」をまとめて掲載中