北海道 人気の旅先｜出会いたい一軒② ～美瑛エリア

北海道の人気の旅先の一つ、富良野～東川～旭川エリア。観光スポットをはじめ、一軒宿やおしゃれなカフェやレストランも多く、ぐるっと巡るのもおすすめ。そんな旅先でほっとできる、お店の雰囲気も人も、ぬくもりある一軒に出会う。

ries café （美瑛町）

20年間ずっと変わらず、あたたかく迎える一軒

美瑛の丘から少し離れた五稜地区のカフェ。店内には100年ほど前の納屋で使われていた古材を用いた床やカウンター。手をかけ、時を経たものたちが発する穏やかなぬくもりに包まれて、ゆったりと時間が過ぎていく。

オープンは2002年。当時40歳だったオーナーの川上敦さんは岩見沢市の出身で、ニセコで習得したテレマークスキーの技術を活かし、インストラクター兼ガイドの仕事をする拠点としてこの場所に辿り着いた。土地探しに3年、住居兼カフェの建物は自ら手がけ、夏を中心に2年半かかったという。

コーヒーは自家焙煎。写真のアップルパイは冬限定（12月～3月）、夏場は庭で育てているベリーを使ったケーキや、シャーベットがニューに出ることも

カフェを始めたのは「老後のため」と川上さん。「身体が資本のスキーの仕事はいつできなくなるかわからない。そのためにも今から店をはじめ、最終的にそれで生きていけるのではないか」と考えてのことだった。冬は留守番の多い妻の里枝さんが働く場としての意味合いも大きかった。

「雪は色がないようでいて見ているとあるし、音も吸収されるからすごく静かで穏やかな世界。雪の中で遊ばないのはもったいない」と言う川上敦さんは、今もスキーの仕事を続けている

妻の里枝さんは静岡出身。再訪したお客さんの顔を覚えていて、「ああ、あのときの……」と言葉を交わすことも

訪れる人それぞれの想いが綴られた雑記帳

当初からのコンセプトは、「田舎のじいちゃんばあちゃんがやっているような店」。最近ようやくそのようになってきたと夫妻は笑う。20数年の間には、結婚や出産と人生の節目ごとに顔を見せにくるカップルがいたり、幼い頃両親と来たという若い男性が「昔書いた雑記帳が見たい」と一人で再訪したり。そんなゲストを、川上さん夫妻は、出過ぎず、かといって放ったらかしでもなく、それぞれにとってのほどよい距離感で迎える。
「田舎のじいちゃんばあちゃん」のように訪れる人を迎え、自分たちでできることは、極力手間を惜しまず手づくりする。そんな日々を積み重ねてきた時間の確かさが、店内の心地いい空気をつくっている。

敦さんのベースはニセコの修業時代。スキーの師匠をはじめ、家をセルフビルドする友人も多く、敦さんも自身でつくることに

店内は四季を通じて緑豊か。冬はクックストーブのおかけで観葉植物も快適

ries café（ リーズ カフェ）

丘のほとり（美瑛町）

夫妻の夢をかなえた、 丘に建つ小さな宿

美瑛町の夕陽の絶景としても知られる新栄の丘。その丘のほとりに、森部富士樹さん・初美さん夫妻にとって２軒目となる宿がある。実はこの丘から車で５分ほど離れた別荘地の一角でも夫妻は宿を営んでおり、現在二つの宿を切り盛りしている。

もともと丘の上の一軒宿を希望し、愛知から移住。だが理想の場所が見つからず、2007年、急きょ手放されることになった別荘の建物で、夫妻は宿をオープンさせた。以来大切に育ててきた宿はゲストにも愛され、経営面も軌道に乗るように。だが 2016年、それまで何度も横を通り過ぎていた低木林で、「売地」という小さな看板を見かけたのを機に変化が起きた。一時は手放した一軒宿への憧れと、資金繰りや自分たちの体力、スタッフの問題など、現実面で無謀だと躊躇する気持ち……そんな富士樹さんの背中を押したのが、初美さんの言葉だった。「やらなくて、あのときやっていればよかったと思うより、トライして、それから判断した方がいい」。

4つの客室すべてから十勝岳連峰などの山々が見える。刻一刻と移り変わる美瑛の風景を客室それぞれからゆっくり楽しめるのも魅力

夕食は前菜、スープ、魚、肉料理、デザートのフルコース。味や食感も様々な3種類の前菜と、季節のフルーツを添えた3種類のデザートもサプライズ感がある

こうして2017年、夫妻は丘に建つ一軒宿を新たに始めた。この地で10年近く宿を営み、暮らしてきたからこその心遣いやもてなしが評判に。料理も然り。素材ありきの想いはいっそう深まり、より季節に寄り添うようになっただけでなく、たとえ値が張っても、自分たちが美味しいと思う食材を使い、そのよさをできる限り活かしつつ手間を惜しまずつくる。「すべては、お客さまに喜んでいただきたいという想いがあってのこと。一枚一枚お皿を出すたびに、今日はこんな料理が出てきたという小さなサプライズを重ねていく、それも楽しみの一つかなと思うんです」。

初美さんは料理担当。「自分がいろいろな味を楽しみたいと思うので、なるべく同じ味が重ならないようにしたい」。連泊客が、レパートリーの引き出しを増やしてくれた、とも

館内いっぱいに広がる、手づくりケーキやパンを焼く匂い、ひと皿ごとにときめく季節の味わい、そして、目の前で表情を変える丘の風景。五感で美瑛を満喫し、日々の疲れを癒したい。

パンやケーキは富士樹さんが担当。夕食のパンは、2007年に宿を始めたころからつくり続けている。北海道産ライ麦の全粒粉を使用

「お客さまそれぞれがどう過ごされたいかを尊重したい」と森部さん夫妻が営む宿

丘のほとり