北海道 人気の旅先｜出会いたい一軒① ～富良野エリア

北海道の人気の旅先の一つ、富良野～東川～旭川エリア。観光スポットをはじめ、一軒宿やおしゃれなカフェやレストランも多く、ぐるっと巡るのもおすすめ。そんな旅先でほっとできる、お店の雰囲気も人も、ぬくもりある一軒に出会う。

すぎやま珈琲（中富良野町）

子どもと過ごせる、 コーヒーのある生活

メニューはコーヒーを中心に季節のケーキや軽食、ほかに農薬不使用の紅茶もある。季節のケーキは、夏は中富良野産ブルーベリーを使用したフレッシュブルーベリーチーズタルト（ブルーベリーがなくなり次第終了）や、カフェアフォガードが人気

「あまりコーヒーに馴染みのなかった人たちが、これなら飲めると言ってくださると励みになります」と、オーナーの杉山雅章さんは言う。2010年、富良野市にオープンした店は駅にも近く、地元の人たちも多く訪れた。その流れは、2020年に中富良野町へ移転してからも続いているという。

靴を脱いでもらうスタイルは、小さな子どもがハイハイできるようにという配慮から。「子育てしている人たちも息抜きしてほしいですから」。自身も二児を育てる妻の恵さんが言う。実は移転先をこの地に決めたのも、子育てを考えてのこと。近くの森林公園には、恵さんも立ち上げに携わった、自然の中で子どもを育てるデンマーク発祥の「森のようちえん」があるのだ。

建物の壁は、内外とも石膏ボードの状態で引き渡してもらい、2階に住みながら自分たちで仕上げた。「外壁は巾木を測って切って打ち込んで。内壁も粉まみれになって珪藻土を塗りました。最初は工具の使い方も知らなかったんですけど」と恵さん

そもそも静岡出身の杉山さんがコーヒーの世界に足を踏み入れたのは、30歳を過ぎてから。20代は好きなスキーで世界中の山を滑りたいと旅行会社の海外駐在員になり、スイスをメインにヨーロッパで７年ほど生活。当時は日本在住の海外ツアーコンダクターだった恵さんとも、仕事で出会った。その後、雅章さんは帰国、ヨーロッパの気候と似た北海道で次の道をと考え、洞爺湖のレストランで働いたとき転機が訪れた。「コーヒーが食事全体のイメージを決める」ことに気づき、突き詰めてみたいと思うようになったのだ。

それからはコーヒー専門店で修業し、実践を積みながらコーヒーの世界観を広げる日々。「それまでは苦味が強く、ボディの豊かなコーヒーが好きで、コーヒーとはそうあるべきだと思っていました。でも、香りが華やかなものや軽いものなど、いろいろな種類の豆を知って、美味しいコーヒーは一つに限定できないと思うようになりました」。

淹れるときはネル製の布のフィルターを使用。紙フィルターよりも雑味が抑えられるという。「コーヒーの味は80%生豆のよさで決まる」と杉山さん。いろいろな方向性の味に出会えるのも楽しみ

豆を選ぶ基準は、2011年の震災や子育てをきっかけに、食への安全性をより重視するように。有機栽培やフェアトレード、さらに農園主の取り組みや栽培方法がしっかりしているものを見極め、仕入れているという。現在、店で扱う豆は10種類に加え、季節限定のおすすめが2種類。すべて自家焙煎し、オーダーが入るたびネルドリップで淹れる。「コーヒーの裾野をどんどん広げたい」と杉山さん。小さな店には大きな夢が詰まっている。

インテリアもさりげなく、でもかわいく

店は北星山の中腹に建つ。周囲はラベンダー畑

すぎやま珈琲

いつか富良野へ（富良野市）

富良野に住みたい、 その想いをかたちに

「森の中で暮らしたい」という夢を叶えたダイニングルーム。 窓からの風景に心がやすらぐ

JR富良野駅から車で約15分。下御料の広葉樹林の中に建つ宿は、オーナーの増田直子さんの富良野への想いがぎゅっと詰まった場所。「とにかく住みたくて、家族よりも先に私一人で来ちゃったんです」。穏やかな口調ながら、想いの強さが伝わってくる。

そもそも千葉出身の増田さんが一人で富良野へ通うようになったのは、2008年の家族旅行がきっかけだった。学生時代や結婚後、何度か旅行で来たことはあったものの、しばらく子育てや介護の仕事に追われ、久しぶりに富良野を訪れた増田さん。そのとき泊まった小さな宿で、移住した女性が女手ひとつで宿を営む姿を見て、「こういう生き方があるのか」と刺激を受けたという。

「富良野は芦別岳から十勝岳連峰と、周囲をぐるっと山に囲まれていて、包んでくれる感じがします。自然の風景に感動する気持ちは何年経っても変わらないですね」と増田さん

当時は3人の子どもが無事巣立ち、今後の自分の生き方を模索していた時期。以来、何度もこの地に足を運び、やがて「住まなければ見られない風景がある」と、移住体験のお試し住宅に3カ月間住むことに。さらにその後は「自然の中で暮らしたい」と、人家もまばらな富良野市郊外で空き家を見つけ、持ち主に直談判。なんとか住めるように手を加え、真冬の1月から1年間暮らしたという。この間に夫の幸生（ゆきお）さんも移り住んできた。「もともと夫は、私の富良野行きに反対していたわけではなかったんです。でも、まさか本当に行くとは思わなかったって、後から聞きました」。増田さんの本気の行動力が、家族の心を動かしたのだろう。

こうして2014年に宿をオープン。だが、その前後の数年間、さらに１～２年前にも増田さんは孤軍奮闘を続けることに。実は退職した幸生さんに元の職場から声がかかり、最初は千葉、そして沖縄に単身赴任したのだ。だが、今回は幸生さんと入れ替わるように、三男の泰介（だいすけ）さんが富良野に移住。以来、繁忙期限定で宿を手伝うことになったが、知り合いのアスパラ農家を手伝う日々で農業に目覚め、ゆくゆくは引き継ぐことを決めたという。
そうして今年（2024年）4月、泰介さんが就農。春はアスパラ、夏はスイカなどをつくっている。宿は現在、幸生さんも単身赴任から戻り、増田さんと二人で営んでいる。

デザートのシフォンケーキは、近隣の養鶏場で育てる純国産鶏が産む「さくらたまご」を使用

朝食の定番はキッシュ。季節の野菜がたっぷり入っていて、軽い仕上がり

「ずっとパソコンに向き合う仕事をしてきましたが、体を動かすのはもともと好き。スノーボードもするので冬は大好きだし、農業は自分のつくったもので人にありがとうと言ってもらえるところが、すごくいいと思います」と泰介さん。増田さんも「今後は、もっと野菜をふんだんに使った食事を提供したい」と夢がふくらむ。家族の連携でもてなす宿の、今後の歩みが楽しみだ。

客室は4部屋。介護の仕事をしていた経験から、 館内はバリアフリーになっている

ほっとさせるかわいらしい小物もあちこちに

冬にはボルシチなどの煮込み料理も登場する。朝食のみが基本で、希望者にはプラス料金で夕食を提供する

宿を象徴する看板は、富良野在住のイラストレーターが手がけた。「森の中にあって、ラベンダーが好きで、雪もいっぱい降る。そんなイメージを伝えてあたたかい感じにとリクエストしたら理想通りでした」

いつか富良野へ