2024/03/30 10:30
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ポタジェ|みどりのゆび ~植物を上手に育てる魔法の指
今回は、“みどりのゆび”に近づく秘訣をご紹介したいと思います。ヨーロッパでは植物を上手に育てる人のことを「みどりのゆびを持っていますね」と褒めるのだそうです。
このコーナーでは、季節ごとの野菜やハーブ、果樹、お花など、相性のよいコンパニオンプランツを組み合わせながら育てて楽しむ“ポタジェのある暮らし”を紹介していきます。お料理や花のクラフトも。
文・写真:藤井 純子さん(ピュア・ポタジェ代表)
ヨーロッパでは植物を上手に育てる人のことを「みどりのゆびを持っていますね」と褒めるそう。どんな植物でも美しく育てられたら嬉しいものですね。そこで今回は、“みどりのゆび”に近づく秘訣、基本的な考え方をご紹介したいと思います。
毎年はじめて見るような気持ちで、実を付け始めた野菜に心をときめかせてみよう。写真は、スナックエンドウの小さな実
“みどりのゆび”の由来は、フランスの童話『みどりのゆび』といわれています。どんなところにも花を咲かせる魔法の指を持った主人公のチト少年は、病院や刑務所、大砲などにも見事な花を咲かせ、大事なことを忘れてしまった大人たちに自然や人を愛する気持ちを思い出させる物語です。
チト少年のように、指で触れるだけで植物を上手に育て花を咲かせることはできませんが、少しでも近づけたら嬉しいものですね。
“みどりのゆび”の6カ条
1.子どものような純粋(ピュア)な心で植物や自然と接してみよう!
2.自然は偉大な存在~自然に敬意を持って育てよう!
3.ゴールを決め、両輪で進む
4.植物のことを知り、気持ちを察する
~左脳的思考と右脳的思考と中庸の視点
5.ありがとう
6.自分を大切に
では、6カ条について、詳しく見ていってみましょう。“みどりのゆび”に近づく近道です。
1.子どものような純粋な心で植物や自然と接してみよう!
子ども心を思い出して植物と仲良くなろう
子どもの頃、シロツメクサで冠をつくったり、タンポポの綿毛を飛ばしたり、アリを見つけては「どこに行くのかな?」と日が暮れるまで遊んだ経験はどなたにもあるのではないでしょうか。
雑草や虫、生き物たちとも仲良く、庭で一緒に暮らす気持ち
雑草や虫と遊んだ頃のように「こんにちは」「おはよう」「大きくなったね」。いつも遊びにくるカラスにも「今日はいい天気だね。子供が生まれたのね。」と、子供のような純粋な好奇心を輝かせて植物や自然と接してみましょう。
2.自然は偉大な存在 ~自然に敬意を持って育てよう!
植物=植わっている物。動物=動く物
名前の通り植物は「植わっている物」。それに対して動物は「動く物」。動ける動物や人と違い、植物は居心地が悪くても台風が来ても自ら動くことはできません。それぞれの置かれた場所で精いっぱいに育っています。まずは、自然に敬意を持ちながら向き合い、植物からのメッセージを受け取りましょう。
●生物多様を意識してみよう!
大切に育てているバラなどにアブラムシを発見すると悲しくなりますが、アブラムシとテントウムシは、イラストのように捕食関係にあります。
地球上の生きものは40億年という長い歴史の中でさまざまな環境に適応しながら進化して、現在は3,000万種以上の生物が生息しているといわれています。動物や植物、菌類や微生物などすべての生物は、直接的に間接的に支え合って生きています。
そのように考えると、さまざまな生物がバランスよく住む環境(菜園)づくりが大切です。「ポタジェ」の特徴でもある少量多品種や混植、コンパニオンプランツを菜園づくりに取り入れるのもおすすめです。
すぐに真似できる!コンパニオンプランツの例
・トマト(ナス科)+バジル(シソ科)
バジルの爽やかな香りがトマトにつくアブラムシなどの害虫を忌避する効果があるといわれています。また、バジルの根が適度に水分を吸収するため、トマトの実が水っぽくならず、甘くなる効果も期待できます。
トマトとバジルは料理の相性がよいのもうれしいところ
・ピーマン(ナス科)+ナスタチウム(ノウゼンハレン科)
ナスタチウムの香りがアブラムシを忌避するほか、葉や枝につくハダニやスリップス(アザミウマ)などを求めて益虫が増え、ピーマンの被害が少なくなる効果が期待できます。
ナスタチウムの花に訪花昆虫と呼ばれるハチなどが訪れ、植物の受粉を助けてくれる効果も
・赤シソ+青シソ(どちらもシソ科)
赤シソと青シソは分類学上きわめて近い仲間ですが、色も香りも異なるため、それぞれにつく害虫が異なり、お互いに害虫による被害を予防する効果が期待できます。また、赤シソの紫色がポタジェのアクセントになってくれます。
赤シソはシソジュースづくりに。青シソは料理に活躍してくれる
●自然環境を考えてみよう!
多様な生物が住む自然は、バランスを保ちながら私たちに実りや喜びをもたらしてくれる、かけがえのない存在ですね。
雨が降って山を潤し、川になり海につながり循環している
雑草と呼ばれる草は、物理的に表土を覆い乾燥を防ぎます。また、昆虫や微生物の住みかとなり土壌を肥沃にしてくれます。自然が循環する仕組みを考えると、農薬や肥料に頼り過ぎず、人と環境に優しく栽培することがとても自然なことですね。
さまざまな植物を混植すると多様な昆虫が住み、菜園への病害虫被害の軽減にもつながる
我が家のポタジェ(菜園)。自然の生態系をイメージしてさまざまな植物を少量づつ栽培
3.ゴールを決め、両輪で進む
はじめての植物を育てるときは、ワクワクすると同時に「ちゃんと育つかな?」というドキドキが混在するもの。そんなときに大切にして欲しいのが、ゴールを決めることと車の両輪(左右のバランス)という考え方です。
快適にスムーズにゴールまで進もう!
ゴールとは目標のこと。例えば「採れたてのエダマメを食べたい」「自家製大豆でお味噌をつくりたい」「アナベルのリースをつくりたい」など具体的な目標を持つと、どのくらいの量が必要か、いつ頃に収穫するとよいのかなど、植物に興味が湧き探求心が磨かれます。
そして、できるだけゴールまでの道のりをスムーズに進みたいものですね。その目的地まで車を運転していくイメージをしてみましょう。車は前後左右4輪のバランスが取れていると、よりスムーズにゴールにたどり着くことができます。
左タイヤは左脳的思考の「論理」、右タイヤは右脳的思考の「直感」と捉え、バランスを取りながら進みましょう。次の4で詳しく紹介します。
淡いグリーンが美しいアナベルのリースは、収穫のタイミングが大切
4.植物のことを知り、気持ちを察する ~左脳的思考と右脳的思考と中庸の視点
左脳は、計算力、分析力、計画性、科学的な思考、論理的な思考を司る脳といわれています。植物を栽培するとき、育て方や栽培スケジュール、堆肥、肥料、ph、準備などを論理的に考え、実践する方も多いのではないでしょうか。
そのような情報と合わせて植物の原産地や種類(科・品種)、どのくらいの草丈になるのか、1株の収穫量や品種による違いなども意識してみると、さらに栽培の面白さに気がつくことができます。原産地を知ることは、自分の住む地域にあった定植のタイミングや日当たり、水分管理などの参考にもなります。
毎年記録しておけば自分だけのデータになり、翌年以降の参考になりますね。
左脳は論理的思考。右脳は直感的思考
●直感的思考(右脳)
論理的な思考や言葉、計算などを司る左脳に対して、右脳はひらめきやイメージ、直感などの感性に関係する能力をコントロールしているといわれています。栽培しているときに「いつもとなんか違うな」「風向きが変わった」というような些細な変化を違和感(不自然さ)として敏感にキャッチできるのは右脳のおかげです。
我が家のポタジェ。毎日の見回りも大切!些細な変化を感じられるようになる
実は、右脳が活発なのは幼少期といわれ、成長するにつれてだんだんと左脳が優位になり、先入観や第一印象、思い込みという心のフィルターがかかってしまうのだそうです。
実際に見えているのは葉や枝などの地上部ですが、土の中の根も「どんな風になっているのかな」とイメージ膨らませてみましょう。そうすることで、少しずつ水やりのタイミングなどを直感的、感覚的に受け取れるようになるはずです。
見えているのは地上部だが、土の中にある根も想像してみる
●中庸の視点で本質を捉える
中庸(ちゅうよう)とは「偏りがなく中立的である」という意味で、どちらかの片方の意見を取り入れるのではなく両方をバランスよく取り入れるというニュアンスも含まれた言葉で、孔子の「論語」が由来といわれています。いつもと違うことが起きたときは、論理的思考(左脳)と直感的思考(右脳)の両方の視点を持ちつつ視野を広げ、客観的な視点で捉えることで本質が見つかり、問題や疑問を解決することができます。
左脳と右脳をバランスよく使うことで本質を捉えることができる
例えば、葉を利用する宿根草のコモンセージ。いつもは花が咲かないのに花が咲いたとき、「キレイ!」と思いながらも直感的に違和感を覚えるはずです。そんなとき、「そもそも花が咲くということはどういうことか?」を考察します。花=実=種(タネ)=子孫。何かしらの要因で生命の危機を感じて花(=種)が咲いていることが想像できます。定植してから数年が経ち、土の中で根が詰まっていることを必死に訴え、花が咲いたのですね。コモンセージの場合は、掘り起こして新しい場所に移植すると花が咲かなくなりますが、このように中庸の視点で考察することで問題を解決できる場合が多くあります。
そもそも植物は弱っていると病害虫の被害にあいやすくなりますので、左脳と右脳、中庸の視点で考察しながら、日ごろから植物にストレスがかからないように気を配り、丈夫な体(株)に育ててあげることを心がけましょう。
花が咲いたコモンセージ。タネに栄養を送っているため、葉の色がいつもより薄くなっている
5.ありがとう
小さなタネが発芽して、美しい花が咲き、花の蜜を求めてチョウやハチたちが訪れ、受粉をして、やがて実りをもたらしてくれる植物たち。そんな健気に育つ植物には感謝が込み上げてくるものです。
小さな実も大切にいただく
育ってくれて“ありがとう”という気持ちを込めて、丁寧に味わい、育てた花やハーブでクラフトづくりを楽しみましょう。植物と関わる時間を増やすことも植物と相思相愛になる秘訣です。
6.自分を大切に
上手に育ったときの喜びと感動は、「来年もまた続けたい」という気持ちにしてくれるものですね。夏の暑い時期などは「あと少し…ここまでやりたい」と、ついつい頑張り過ぎてしまいがちですが、体を壊してしまったら大変。自分へのご褒美も忘れずに、心の余裕を持つことも大切です。忙しいと感じるときは時間の使い方を少しずつ見直してみるのもおすすめです。植物の些細な変化をキャッチするためにも自分を大切にしましょうね。
心の余裕づくりも大切
植物はもともと自然の野山に育っていました。想像力を膨らませながら、植物のお手伝いするというスタンスで接してみましょう。毎年毎年、植物と向き合いながら育てるうちに知識も直感も磨かれ、やがてどんな植物も元気に育てられる“みどりのゆび”になっていくことでしょう。
プロフィール
藤井 純子
「Pure Potager(ピュア ポタジェ)」代表。ポタジェ・アドバイザーとして道新文化センター札幌校などのセミナー講師のほか、新聞・雑誌にて執筆活動を行なう。また、ポタジェの魅力を一冊にまとめた「Green Finger ポタジェ~小さな庭が与えてくれる恵みと幸せ~」を執筆。「コーチャンフォーミュンヘン大橋店」で取り扱いのほか、HPに掲載のネットショップを利用。またはAmazonでも販売、「ポタジェ」で検索。
HP ピュア・ポタジェ
Instagram pure.potager
YouTube ポタジェ『心と身体を癒す庭へようこそ』 @lifewithpotager401